「カウンセリングは話を聴いてくれるだけ。それなら、家族や友達に話すのと同じ」
そんな風に思っていませんか?
実は、カウンセリングではクライエント(=相談者)が「安心して話せる」「自分の考えや気持ちを整理できる」といった効果を感じられるよう、独自の「技法」を用いているのです。
そこで、今回はカウンセラーが用いるカウンセリング技法についてご紹介します。
なお、カウンセリング技法には様々な考え方がありますが、この記事では多くのカウンセリングに共通するコミュニケーションの形を1つ1つ技法として命名した「マイクロカウンセリング」に基づいて解説しています。
カウンセリング技法の前提となるかかわり行動
クライエントは、「カウンセリングってどんなものだろう」「カウンセラーはどんな人だろう」と不安を抱きながら、カウンセリングにやってきます。
そのため、カウンセリングでは言葉でやり取りする前に、非言語情報から安心感を与える「かかわり行動」を大切にしています。
かかわり行動で重視される非言語情報は以下の通りです。
■表情や視線
笑顔で迎え入れ、話を聴くときには適度に視線を合わせます。ただし、見つめられるのが苦手な方もいるため、様子を見ながら視線を外すこともあります。
■姿勢
クライエントの方に身体を向け、「話を聴きます」と態度で示します。
■話し方
クライエントは緊張や不安から早口になってしまうことも。カウンセラーはクライエントよりゆっくり穏やかに話すことで、クライエントの気持ちが落ち着くようサポートします。
カウンセリングのかかわり技法
クライエントの言葉を引き出し、整理するのが「かかわり技法」です。
はげまし
「はげまし」と聞くと「頑張れ!」と応援するイメージを持つかもしれません。
しかし、技法としての「はげまし」とは、クライエントの話を促す以下のような方法を指します。
■うなずきやあいづち
クライエントの話にうなずいたり、「そうなんですね」「なるほど」といったあいづちを打ったりすることで、クライエントに興味を持って話を聴いていることを示し、話しやすい環境を作ります。
■繰り返し
クライエントの言葉をそのまま繰り返す方法です。お互いの理解にズレがないこと、正確に聞き取っていることを示します。
言い換え
「言い換え」は、カウンセラーがクライエントの言葉を正確に受け取った上で、
■言い換え
より的確な表現にする
■要約
言葉を整理してまとめる
といった形で伝え返す方法です。
辻(2017)*1は、言い換え技法には次の3つの意味があると述べています。
- クライエントの発話を促進する効果
- クライエントの語った重要なことをもう一度よく確かめてもらい、クライエントの自己探求を促進し深めること
- カウンセラーがちゃんとクライエントの話しを聴くことができており、その理解が正確であるかを確かめること
感情の反映
「感情の反映」とは、クライエントの話を聴いて背景や状況を理解し、その時にクライエントが抱いた感情を受け止め、言葉にして伝える技法です。
例えば、「職場でみんなが私の悪口を言っているような気がして、行きたくないなぁと感じます」というクライエントに対しては、「みんなが悪口を言っていると思ったら、味方がいなくて怖いですよね」と、クライエントが感じていたであろう「怖い」という感情を言葉にします。
このように感情の反映を行うと、クライエントは「自分の気持ちを分かってくれた」と安心感を抱き、さらに話しやすくなります。
質問
質問には「開かれた質問(オープンクエスチョン)」と「閉ざされた質問(クローズドクエスチョン)」の2種類があります。
■開かれた質問
クライエントが自由に答えられる質問です。基本的に5W1Hに沿った形で問いかけます。
■閉ざされた質問
YESかNOで答えられる、あるいは「何人兄弟?」や「どこで働いている?」など答えが1つに決まっている質問です。
これらの質問のメリット・デメリットについては、吉井(2015)*2をもとに、下の表1にまとめました。

カウンセラーはクライエントの様子を見ながら、この2種類の質問を使い分けていきます。
カウンセリングの積極技法
クライエントの主体性を重んじつつも、カウンセラーから積極的に働きかけて問題が解決する方向に促していく技法です。
論理的帰結
「論理的帰結」とは、クライエントが迷っている選択肢1つ1つについて、「この選択肢を選ぶとどんな結果になるか」を本人に予想させる技法です。
そして、予測結果それぞれのメリットやデメリット、コスト、成功確率などを冷静に判断してもらうことで、クライエントの考えが整理されクライエント自身が納得できる選択が可能になります。
解釈
クライエントの話を別の視点から捉え直し、伝える技法が「解釈」です。
例えば、「うちの親はいつも口うるさくて腹が立つ」と話す人に対し、「親はあなたが心配なのではないか」と「親の視点」を伝えます。
これまでご紹介してきた技法がクライエントの視点に寄り添っているのに対し、解釈ではあえてクライエントの視点とは違う方向から指摘するため、クライエントが強く反発したり、「このカウンセラーは信頼できない」と感じたりする原因となってしまいます。
クライエントの背景を十分に理解し、受け入れられそうな言葉とタイミングで伝えることが必要です。
フィードバック
「フィードバック」は、クライエントの行動や考えについて客観的な視点から「こう見える」と伝えることで、自分の行動の問題点などを自覚すると共に、修正を促していく技法です。
先ほどお話しした解釈と似ていますが、解釈にはカウンセラーが「こうじゃないかな?」と考えた推論が含まれているのに対し、フィードバックではあくまで「事実」に目を向けて伝えていきます。
自己開示
「自己開示」は、カウンセラーが感じたことや考えたこと、自分の体験や価値観などを話す行為を指します。
カウンセラーがどんな人間か分かることで、クライエントが安心して話しやすくなります。
また、人の心理には「してもらったことには同じように返したい」という「返報性の法則」が働いています。
そのため、カウンセラーが自己開示すると、クライエントにも自然と「自分も話そう」という気持ちが生じます。
対決技法
クライエントの感情・思考・行動の矛盾や不一致を言葉にして伝えるのが「対決技法」です。
例えば、「こんな会社辞めて転職したい」と言いながら、実際には転職活動を全く始めない人は、「転職したい」という思考と「転職活動を始めない」という行動が矛盾しています。
それについて「転職したい気持ちもあるけど、転職活動を始めることには何かためらいもあるみたいですね」など言葉で伝えていくのです。
矛盾や不一致の指摘を意識するあまり、「転職したいと言っているのに、なんで転職活動をしないんだ!」と突きつけると、クライエントは否定された気持ちになり、自由に発言するのも怖くなってしまいます。
それではカウンセリングがうまく進められません。
対決技法では、クライエントの葛藤する気持ちに寄り添いながら、穏やかに伝えることが求められます。
対決技法を通じてクライエントが矛盾を抱えた自分に気づき、「どうしてなんだろう?」と考えを深められれば、悩みの根底にある問題が見えてくるでしょう。
まとめ
この記事では、カウンセリング技法について以下のように解説しました。
■かかわり行動(言葉以前の非言語情報による安心感を提供する)
■かかわり技法(クライエントの言葉を引き出し、整理する)
- はげまし:クライエントの話を促すうなずき・あいづち・繰り返し
- 言い換え:クライエントの言葉をより的確に言い換え、あるいは要約する
- 感情の反映:クライエントの感情を受け止めて言葉にする
- 質問:開かれた質問(自由に答えられる質問)と閉ざされた質問(YES・NOや1つの答えで答える質問)
■カウンセリングの積極技法(問題解決に向けたカウンセラーの積極的な働きかけ)
- 論理的帰結:選択した結果を予測させ、納得いく選択をしてもらう
- 解釈:クライエントの話を別の視点から捉え直して伝える
- フィードバック:クライエントの行動や考えを客観的な事実をもとに伝える
- 自己開示:カウンセラー自身の感情・思考・価値観などを伝える
- 対決技法:クライエントの感情・思考・行動の矛盾や不一致を伝える
カウンセリングの技法による効果だけでなく、カウンセリングを受ける中で得られる様々な効果について知りたい方は【本質】カウンセリングの効果とは何なのか心理学の専門家が解説もぜひあわせてお読みください。
参考文献 *1 辻潔(2017)カウンセリング初心者が陥りやすい問題とカウンセリング指導上の工夫に ついて-マイクロカウンセリングの視点を中心に- 追手門学院大学地域支援心理研究センタ ー附属心の相談室紀要 14号 *2 吉井健治(2015)カウンセリングの基本的技法-相手のこころに近づく聴き方 十二の 技- 鳴門教育大学研究紀要 30 pp41-51.