女性にとって妊娠は大きな喜びとなる一方で、「妊娠前には普通に出来たことが出来ない!」というストレスの原因にもなります。
特に仕事では、これまで通りに働けることを、あなた自身も周りの人も求めがち。
しかし、周りを頼らざるを得ない場面が増えて、もどかしさを感じたり、以前のように仕事ができないあなたに不満を言う人が現れたりと、職場の人間関係がストレスになることは少なくありません。
この記事では、妊娠中に仕事の人間関係がストレスになる原因と対処方法をご紹介すると共に、状況をさらに悪くしてしまう絶対NGの対処方法もお話しします。
これを読めば、妊娠中も気持ち良く働きながら、あなたと赤ちゃんを守るための行動が分かります。
妊娠中に仕事での人間関係がストレスになる原因とは?
周りの人に頼らざるを得ないから
妊娠中は、つわりをはじめ、体調不良に悩まされ、仕事を休んだり、遅刻・早退したりすることが増えます。
また、体調が良くても、妊娠トラブルの原因となってしまう立ち仕事や重い荷物を運ぶ作業などは他の人にお願いする機会が多くなるでしょう。
女性労働協会(2006)*1は、就労している妊婦のストレスについてアンケート調査を行いました。
その結果、就労妊婦の77.5%が「産前・産後休業、育児休暇中、同僚への負担増等の気遣い」をストレスだと感じていることが明らかになっています。
「自分の仕事を誰かに任せる」という行為は、身体の負担は減るものの、心への負担は大きいのです。
マタニティハラスメントを受けるから
女性労働協会の資料を再度見てみると「職場で妊婦への配慮が足りない」「職場で喫煙する人がいる」「上司や同僚の心無い発言」「健診時の休暇取得や理解が得られないこと」など、周囲の人の言葉や態度にストレスを感じることも多いようです。
これらは、妊娠を理由とした嫌がらせである「マタニティハラスメント(マタハラ)」を受けている状態と言えます。
ここでは、そんなマタハラの具体例についてご紹介しましょう。
妊娠前と同じ業務をこなすよう求められる
妊娠すると女性の身体には多くの変化が起こります。
よく知られているものはつわりですが、それ以外にも貧血や手足のむくみ、お腹の張りや腰痛、胸やけ、息切れなど、妊娠前よりも不調を抱えやすくなります。
しかし、そういった不調を理解せず、「これまで通りに働け」「妊娠は病気じゃないんだから甘えるな」と妊娠前と同じ業務をこなすことを求める上司がいると、仕事での人間関係ストレスは一気に高まります。
妊娠を理由に退職を迫られる
妊娠しても「出産後も仕事を続けたい」「育休・産休制度を使って安心して子育てしたい」と退職を選ばない女性はたくさんいます。
しかし、日本に残る『男は仕事、女は家庭』という価値観を押し付け、「子どもが出来たなら子育てに専念すれば?」とやんわり退職を促す上司や同僚もいます。
また、「育休を取るくらいなら辞めろ」「何度も休んで迷惑だから辞めろ」など、強く退職を迫る人もいます。
悪口や嫌がらせを受ける
妊娠をきっかけに悪口や嫌がらせを受けることもあります。
例えば、「あの人が妊娠したせいで自分の仕事が増えた!」「私だって妊娠を希望しているのにどうしてあの人が先なの?」など、あなたと自分の境遇を比べて「あの人ばっかりずるい!」と被害感や嫉妬心を募らせた社員が、悪口を言いふらしたり、嫌がらせをしたりすることがあるのです。
また、妊娠による体型の変化に対して「お前太ったな」「胸が大きくなったな」など言われ、不快な気分にさせられることもあります。
妊娠中に仕事で受ける人間関係ストレスへの良い対処方法
赤ちゃんと自分を最優先!
上市ら(2004)*2の研究によると、受験では、第1志望校を受験した人(行動した人)は時間が経過するにつれて後悔が小さくなる一方で、第1志望を諦めて第2志望校を受験した人(行動しなかった人)は時間が経つごとに後悔が大きくなることが明らかになっています。
つまり、やり直しのきかない人生の岐路で「〇〇したい」と思いながら行動しなければ、その後悔がどんどん大きくなっていくということです。
妊娠・出産は受験以上にやり直しがきかないものです。
「あの時、休んでいれば…」「無理しなければ…」という後悔に苛まれ続けることのないよう、勇気を持って自分と赤ちゃんを守る行動を取りましょう。
上司や同僚にうまく頼る
これまで通りにいかない部分は、上司や同僚に相談して上手に頼ることが大切です。
あなたをサポートしてくれないように見える上司や同僚も「妊婦になると何に困るのか」「どんなサポートができるのか」が分からず、手を出せないだけかもしれません。
また、妊婦の就労は法律でも以下のように保護されています。
■男女雇用機会均等法
- 保健指導または健康診査を受けるための時間の確保
- 妊娠中の通勤緩和
- 妊娠中の休憩に関する措置
- 妊娠中または出産後の症状等に対応する措置
■労働基準法
- 妊産婦等の危険有害業務の就業制限
- 妊婦の軽易業務転換
- 時間外、休日労働、深夜業の制限、変形労働時間制の適用制限
しかし、これらの法律が社内で十分に知られていないこともあります。
まずはあなた自身から「どんなことに困っているのか」「どんな制度を使いたいのか」を具体的に発信してみましょう。
「母体健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」を活用して、医師などの専門家による指導内容を会社に伝えるのもおすすめです。
妊娠中に仕事で受ける人間関係ストレスへの悪い対処方法
協力してもらうことを当然だと考える
「妊婦はサポートするよう法律で定められているから、協力してもらって当然」という態度では、「この人に協力したくない」と距離を置かれたり、こっそり悪口や陰口を言われたりして、かえってストレスが溜まる環境になってしまうことも。
- やってもらったことには感謝の気持ちを示す
- 急に休むことになっても周りの人が困らないよう引継ぎ資料を作成しておく
など、気持ち良く協力してもらうための配慮は大切です。
1人で抱え込んでしまう
そもそも妊娠中は心も身体もいつも以上に不安定です。
そのため、妊娠前には1人で対処できた人間関係のストレスも想像以上に負担になることがあります。
そのストレスは赤ちゃんの健康にも悪影響を与えるリスクがあるため、早めの対処が大事です。
仕事で人間関係に悩んだら、1人で抱え込まず、家族や友人、信頼できる同僚や上司などに相談してみましょう。
話しているうちに気持ちが軽くなったり、1人では気づかなかった解決策が見えてきたりします。
また、社内に設置された相談窓口や都道府県労働局雇用環境・均等部(室)では、マタハラ相談を受け付けています。
「こんなことで相談してもいいのかな」とためらわず、連絡してみましょう。
まとめ
妊娠中に仕事での人間関係がストレスになる原因は大きく2つに分けられます。
1つ目は「周りの人を頼らざるを得ないから」、そして2つ目の理由は「マタニティハラスメントを受けるから」です。
妊娠はやり直しがききませんから、「無理しなければ良かった」と後悔することのないよう、赤ちゃんと自分を優先することが何より大切です。
また、上司や同僚に対しては「こんなことに困っている」「この制度を使いたい」と自分から具体的に伝えていくと、協力を得られやすくなります。
一方、協力してもらって当然という態度は、周囲の「協力したい」という気持ちを削いでしまいます。
協力してくれる周りの人への感謝と配慮は忘れずに。
また、ストレスを1人で抱え込んでしまうと自分はもちろん、赤ちゃんの健康にも悪影響となります。
「こんなことで」とためらわず、ぜひ身近な人や相談機関に積極的に相談してみてくださいね。
案外、自分がストレスを感じているかは分かりにくいもの。
「私は人間関係でどんなストレスを感じているんだろう?」と気になる方は、【判定】人間関係のストレスチェックでストレス度合いを測定しようをぜひご覧ください。
また、妊娠中に限らず、人間関係にストレスを感じやすい人は【まとめ】人間関係がストレスになりやすい人の特徴と対処方法もあわせて読んでみてください。人間関係のストレスに負けない自分になるための方法が分かります。
参考文献 *1 財団法人女性労働協会(2006)妊娠期・子育て期の女性労働者のストレスに関する調査 報告書 *2 上市秀雄・楠見孝(2004)後悔の時間的変化と対処方法-意思決定スタイルと行動選択 との関連性- 心理学研究 74(6) pp487-495.