「明日からの新しい職場で人間関係がうまくいくか不安だな」
「私の行動が周りの人にどう見られているか不安…」
など、人間関係で不安を感じる人は少なくありません。
人間関係での不安に囚われると、人前に出る活動が苦痛になるだけでなく、仕事や買い物など、日常生活に欠かせない行動にも支障をきたしてしまうことも。
そこで、この記事では
- 人間関係で直面する不安の解消法
- 人間関係で不安を感じにくくする方法
- どうしても人間関係の不安を解消できないときの対処法
の3つをご紹介します。
この記事を読み終えたころには、「どうすればいいんだろう」と悩むばかりだった不安に対して、自分がどんなアプローチをすればいいか見えてくるはずです。
人間関係で直面する不安の解消法
不安に感じることを言語化する
心理臨床大事典*1を紐解くと、不安について『恐怖はその対象があるが、不安はその対象を持っていない』、『不安の場合は“なんとなく”不安という言い方しかできない』と記述されています。
恐怖の一例として「高所恐怖症」を考えてみましょう。
これは「高い所」への恐怖であることが明確です。
しかし、不安については、特定の何かが対象というわけではありません。
そのため、「もしかしたら〇〇が起こるかも」「××になったらどうしよう」と、不安の原因は次から次に生まれてきてしまうのです。
不安という感情は自分を守る役割を持っています。
しかし、実際に起こる可能性の低いことにまで過剰に不安になると、かえって自分を窮屈にする結果になってしまいます。
例えば、初めて会う人たちに対し「うまく自己紹介できなかったらどうしよう」という不安は、実際に起こる可能性もあることですし、この不安を抱くことで「自己紹介に失敗しないように気をつけよう」と気を引き締めることができます。
しかし、「もし、自己紹介で失敗して笑いものになったら、SNSで拡散されるかも。そしたら個人情報が特定されて、毎日電話が来て…」など、実際に起こる可能性が低いことまで先回りして不安になっていては、もう何も行動することはできません。
そんな不安に対処するためには、「自分が何に不安を感じているか」を言語化してみることが大切です。
不安を感じたことは文字にするだけでも、「書き出したから、覚えておかなくてもいいよね」と脳が忘れやすくなる効果があります。
また、吉村(2007)*2は不安に対処する方法として、自分の不安を言語化・数値化する「セルフモニタリング」を紹介しています。
セルフモニタリングは次の3つの手順で行います。
- 不安を感じた場面についてその状況を記録する
- 不安を感じた状況で頭に浮かんだ考えや感情を記述する
- 体験した感情の強さを0~100点で評定する
この手順でまとめると、下の表のようになります。

吉村の研究では、このように不安をはじめとする苦痛な感情を言語化すると、本人の意図に関わらず、苦痛の程度が抑えられることが明らかになっているのです。
自動思考を修正する
「自動思考」が人間関係の不安につながる場合もあります。
自動思考とは「ある出来事や状況に対して自動的に浮かんでくる考え」のことです。
例えば、「隣にいる人が咳をした」という場面をイメージしてみましょう。
『風邪かな?』と思うだけのAさんは、不安を感じることはないでしょう。
しかし、『私が隣にいるのが嫌なんだ!』と考えたBさんは、強い不安を感じてしまう可能性があります。
この『 』内のようにぱっと浮かぶ考えが自動思考です。
BさんがAさんのような柔軟な自動思考を身につければ、不安の程度は軽減するでしょう。
そこで、試したいのが自分の自動思考が持つ「根拠」と「反証」を見つけるトレーニングです。
1.根拠を見つける
自分が持つ自動思考を裏付ける「根拠」を探してみましょう。
自分の推測でなく、事実を書くのが大切。
「前から〇〇さんは私が一緒にいると嫌な顔をしていたから、私を嫌っているに違いない」といった思い込みや決めつけはNGです。
先ほどのBさんの例では「私が隣に立った途端に咳き込んだ」という風に客観的な事実だけをまとめるようにします。
何が事実で、何が自分の思い込みなのかをしっかり区別することで、1つの状況に対し、過剰な不安を抱くことを軽減できます。
2.反証を見つける
自動思考に対し、「もしかしたら間違っているのかも」という手がかりである「反証」を見つけましょう。
反証を見つけるときには
- 第三者の立場:「親しい友達ならどんなことを思うだろう」「ほかの人が同じように悩んでいたら、どんな声掛けをしてあげる?」
- 元気なときの自分:「元気なときだったら、違った見方をしないだろうか?」
など、今の自分から距離を置いた視点で、自動思考について問い直すことが大切です。
例えば、Bさんも「Aさんなら、『風邪かな?』と思うくらいで気にしないのかもしれない」と気づけば、自分の自動思考への確信が和らぎ、少し不安が軽減されるかもしれません。
自動思考を和らげる方法については、【良好】人間関係がうまくいく5つのコツを心理学の専門家が教えますでもご紹介していますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
人間関係で不安を感じにくくする方法
適度な食事・睡眠・運動を心がける
生活リズムが乱れると、心の調子をコントロールする自律神経のバランスが崩れてしまいます。
その結果、不安などのネガティブな感情を抱きやすくなってしまうのです。
人間関係での不安を感じにくくするためには、適度な食事・睡眠・運動を心がけることが大切です。
特に運動は「やらなくちゃ」と思わなければ、生活に取り入れることができません。
運動の不安軽減効果に関する研究は数多く行われており、青木(2002)*3はそれらの文献をまとめ、運動には精神療法などと同等の不安軽減効果があると結論づけています。
不安軽減に効果的な運動の条件は以下の通りです。
- 強度:中等度(少し息が上がる程度)
- 種類:有酸素運動でも非有酸素運動でも大丈夫
- 頻度:少なくとも週に3回以上
- 1回の時間:30分以上
いきなり全てを頑張らなくても大丈夫です。
まずは通勤の1駅分を歩く、エスカレーターでなく階段を使うなど、まずは運動のある生活を作っていくことから始めましょう。
いつもより運動してみると、ご飯も美味しく食べられますし、寝つきもよくなりますよ。
マインドフルネスを生活に取り入れる
不安が生じるのはまだ見ぬ「未来」にばかり目を向けてしまうから。
しかし、私たちは「今」を生きています。
「今、この瞬間に気づく」ことを目指した「マインドフルネス」を生活に取り入れれば、今を生きる自分の心や身体とちゃんと向き合えます。
そして、思考が勝手に未来へと先走って不安になるのを防ぐことができるのです。
マインドフルネスには様々な方法がありますが、今回は代表的な「呼吸法」をお伝えします。
- 床や椅子に背筋を伸ばして座る
- 目を閉じて、鼻でゆっくりと呼吸をする
- 自分の呼吸に集中する
- 考えが浮かんできても「あ、〇〇について考えたな~」と思うだけ。その考えを消そうと頑張らず、呼吸に集中する中で静かに思考が流れていくのを感じる。
- 3~5分ほど続ける
どうしても人間関係の不安を解消できない時には?
専門家に相談してみよう
不安が大きくなりすぎると、自分1人の力では解決することが難しくなります。
そんな時には、病院やカウンセリングルームなどの専門機関に行ってみましょう。
自分の不安について人に話すだけでも、モヤモヤと大きくなった不安が少し整理されますし、「いざとなれば頼れる人や場所がある」という安心感も不安軽減に役立ちます。
薬が不安の軽減に役立つ可能性は高い
また、不安の背後には何らかの病気が隠れていることがあります。
イメージしやすいのは「不安障害」や「うつ病」といった精神疾患ですが、実は「月経前症候群」や「甲状腺機能亢進症」など、身体の疾患が不安を引き起こすこともあるのです。
「何かおかしいな」「不安がずっと続いている」と感じたら、一度病院を受診することをおすすめします。
薬の力を借りて心と身体を休めれば、少しずつ前向きな気持ちが生まれ、不安軽減に役立ちます。
まとめ
この記事では、人間関係での不安を解消する方法をご紹介しました。
まず、人間関係で直面する不安の解消法としては、
- 不安に感じることを言語化する
- 自動思考を修正する
という2つの方法があります。
また、適度な食事・睡眠・運動を心がけ、マインドフルネスを生活に取り入れることで、人間関係での不安を感じにくい心と身体を育むことも大切です。
1人では、どうしても解消できないほど不安が大きくなってしまうこともあります。
そんな時は専門家に相談してみましょう。
また、薬の力を借りて心と身体を休めることも不安軽減に役立ちます。
これまで何度も人間関係に失敗してきて、「これからも失敗するのではと不安」という方は、【失敗は成功の元】人間関係に失敗する原因とそこから学ぶべきことを読んでみてください。
これまで失敗してきた理由と対処法が分かるはずです。
参考文献 *1 森谷寛之(2010)不安 心理臨床大事典[改訂版] 改訂第7刷p166. *2 吉村晋平(2017)心理学にもとづく“不安”との付き合い方 追手門学院大学地域支援心 理研究センター紀要 14 pp9-15. *3 青木邦男(2002)運動の不安軽減効果及びうつ軽減効果に関する文献研究 山口県立大 学 大学院論集 3 pp37-45.