職場の人間関係に悩む人は少なくありません。
厚生労働省が平成28年に行った調査によると、「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている」という労働者のうち、30.5%がセクハラやパワハラを含む対人関係に悩んでいると回答しています。
どれだけ仕事が好きでも職場の人間関係がうまくいかないと、次第に出勤するのが億劫になってしまいます。
また、転職を考える人もいるでしょう。
そこで今回は、職場の人間関係に悩んだとときに試してほしい3つのことをご紹介します。
自己肯定感を高める
自己肯定感と人間関係の関連性
自己肯定感とは「自分には価値がある」「自分のことが好き」と、自分自身を肯定的に捉える感覚のこと。
自己肯定感と人間関係の関係については様々な研究があります。
例えば、吉森(2016)*1は他者に承認されたい気持ちが強いほど、自己肯定感が低くなるという結果を示しています。
また、志方ら(2018)*2は人間関係に過剰に適応している人ほど、自己肯定感が低いことを示しています。
つまり、自己肯定感が低いと、人間関係で人の目を気にして負担感を抱えてしまいやすいのです。
自己肯定感を高める方法
自己肯定感を高めるために、次の3つの方法に取り組んでみましょう。
小さな成功を積み重ねる
ほぼ確実に成功できる小さな目標をコツコツと達成していきましょう。
「駅では階段を使う」「職場で3人にあいさつする」など、ちょっと頑張れば無理なく達成できるものがおすすめです。
もし、目標を達成できなければ、さらに簡単な目標にします。
ともかく成功を積み重ねることが自己肯定感を高めるためのポイントです。
できたことをノートに残す
人はできないことに目が向きやすく、できたことは忘れてしまいがち。
今日できたことは1~2行で良いのでノートにまとめてみましょう。
「自分は何もできない人間だ」と落ち込んだときに見返すと「自分にもできたことがある」「少しずつ成長している」と前向きな気持ちを取り戻すことができます。
なお、このノートにはできなかったことや反省点などは書きません。
できたことだけを書くようにしてくださいね。
生活習慣・食事を整える
「どうせ自分なんて…」と思うと生活習慣や食事が乱れてしまうことも。
意識的に生活習慣や食生活を整えることで、自分の心や身体を大切に扱うことを習慣づけていきましょう。
また、身体に優しい生活になると、心の安定を司る自律神経のバランスも整い、前向きな気持ちが生まれやすくなります。
職場での人間関係の取り方を変える
アサーティブを習得する
アサーティブ(assertive)とは、日本語に訳すと「自己主張の強い、断定的な」といった意味を持つ英単語です。
それが現代の日本では「相手を尊重しつつ、自分の主張を率直に伝えるコミュニケーションスキル」の意味で広く用いられるようになりました。
ここでは、職場で困ることの多い場面でのアサーティブの例を見てみましょう。
忙しい相手に話しかける
忙しそうな相手に話しかけるのは誰でもためらうもの。
しかし、顧客からの電話連絡や書類チェックなど「どうしても今伝えなければならない!」というシーンは少なくありません。
この時のポイントは次の2つです。
1.相手に配慮して声をかける
「お忙しいところ申し訳ありませんが、3分ほどよろしいでしょうか?」など、相手の忙しさに配慮しつつ話しかけます。
また、「3分」など具体的な時間を示せると、相手も「3分くらいなら時間を確保できるな」と受け入れやすくなります。
2.用件をわかりやすく具体的に伝える
「A社の〇〇様から××の件でお電話がありました。どのように回答すればよろしいでしょうか?」など、用件をはっきりと伝えます。
声をかけたはいいものの、「A社の…あの…〇〇さんから電話があって…それで…」ともたもたしていると、相手を苛立たせてしまいます。
事前に伝えるべき内容は整理してから声をかけるようにしましょう。
注意する
後輩や部下から「嫌われるのではないか」と怖がって、注意ができない人もいます。
しかし、指導することも大切な業務の1つ。
怖がらずにポイントを押さえて注意してみましょう。
1.問題点を具体的に伝える
「ここのところ、書類の提出が遅れがちになっているね。報告もないまま遅れると、他の部署の仕事まで遅れてしまうから困るんだ。」など、相手の行動の問題点とその結果を具体的に伝えましょう。
単に「書類の提出が遅れると困る」というだけでは、「なぜ問題なのか」がイメージできず、改善につながらないことがあります。
2.自分が協力できることを提案する
相手を責めるだけでは、やる気を失わせてしまいます。
「これからは締め切り2日前にリマインドメールを送るから、その時に進捗を教えてくれないかな?」など、自分が協力できることも伝えれば、「サポートしてくれる人がいる」と安心でき、改善に取り組みやすくなるでしょう。
話の聴き方を変える
先ほどご紹介したアサーティブは「話す」技術でした。
しかし、職場で良好な人間関係をつくるためには、相手の話をしっかり「聴く」技術も大切です。
「聴くだけなんて簡単じゃないか」と思われがちですが、人の話を聴くことは意外と大変です。
同僚から「こんなミスをして自分が情けないよ」と打ち明けられた時に、つい「まぁ元気出して。飲みにでも行こうよ」と気をそらそうとしたり、「これからは〇〇すればいいじゃん」とアドバイスしたり、「そんなミスをするなんて気が緩んでいるんじゃないの?」と説教がましくなったり…なかなか聴き続けるのは難しく、だからこそ、ちゃんと話を聴ける人は多くの人に求められる存在になります。
まずは、
- あいづちを打つ
- うなずく
の2つに注意してみましょう。
川名(1986)*3の研究によると、あいづちやうなずきを交えながら話を聴く人の方がそうでない人に比べて、話している人に「親切」「付き合いやすい」といった感覚を抱いてもらいやすいことが明らかになっています。
人間関係の悩みを第三者に聴いてもらう
職場という狭い世界の中では偏った思考や価値観が横行していることがあります。
職場とは異なる意見がもらえる第三者に話を聴いてもらうことで、1人で抱えていた重苦しい気持ちがスッキリしたり、「そんな考え方があるのか」と解決への糸口が見つかったりします。
社内であれば、人事・労務部などメンタルヘルスに関する部署に相談してみましょう。
「社内の人には知られたくない」という場合には、社外のカウンセリング機関を活用するのもおすすめです。
職場の人間関係に悩んだときに転職しても良い?
転職することも1つの方法
どうしても職場の人間関係がつらいという場合には、転職も1つの方法です。
厚生労働省が平成30年に行った調査(厚生労働省「平成30年雇用動向調査の概況」)によると、転職した理由について「職場の人間関係が好ましくなかった」と回答した転職者の割合は、男性では7.7%、女性では11.8%となっています。
職場の人間関係を苦にして転職することはそこまで珍しいことではないのです。
転職しても人間関係がなくなるわけではない
転職すると、以前の職場での人間関係からは離れることができます。
しかし、新しい職場での人間関係をつくっていく必要があり、途中で再び「うまくいかない」と悩んでしまうことも。
人間関係に悩むたびに転職するのは現実的とは言えません。
転職する/しないに関わらず、職場での人間関係に悩んだら、まずは自分自身に原因がないかを振り返り、今回ご紹介した方法を試してみてください。
人間関係の悩みに主体的に取り組めるようになれば、もし転職した後の人間関係でつまずいたとしても、しっかり立ち直ることができるはずです。
まとめ
今回は職場の人間関係で悩んだときに試してほしい「自己肯定感を高める」「職場での人間関係の取り方を変える」「人間関係の悩みを第三者に聴いてもらう」という3つの方法をご紹介しました。
どれだけ「あの人さえ変わってくれれば…」と思っても、他者を変えることはできません。
しかし、自分の接し方を変えれば相手の態度が変わることはあります。
これまで慣れ親しんできた自分のスタイルを変えるのは抵抗感があるかもしれませんが、やりやすいところからぜひ試してみてください。
また、こちらの記事には職場以外の人間関係でも役立つコツをご紹介しています。
「そもそも人間関係が苦手だ」という方はこちらもあわせてご覧ください。
参考文献 *1 吉森丹衣子(2016)大学生の自己肯定感における対人関係の影響―コミュニケーションを 重視して― 国際経営・文化研究 21(1)177-188. *2 志方亮介ら(2018)青年期の自己認知と反映的自己認知との差異からみた適応様式の類 型と精神的健康との関連 九州大学総合臨床心理研究 9 19-30. *3 川名好裕(1986)対話状況における聞き手の相づちが対人魅力に及ぼす効果 実験社会 心理学研究 26(1) 67-76.