ピアカウンセリングとは何なのか心理学の専門家が解説

ピアカウンセリングとは何なのか心理学の専門家が解説

「悩みを誰かに話したい」

そんなときに「カウンセリング」を検討する人は多いのではないでしょうか。

そして、「どんなカウンセリングがいいんだろう?」と調べる中で、「ピアカウンセリング」という方法に出会うことがあります。

ピアカウンセリングとは、こころの専門家ではなく、ピア(仲間)によるカウンセリングのこと。

そのため、私たちがイメージする「カウンセラーに1対1でじっくり話を聴いてもらう」というカウンセリングとは異なる部分がたくさんあります。

そこで、この記事では、

  • ピアカウンセリングとは何なのか
  • ピアカウンセリングのメリット
  • ピアカウンセリングのデメリット

を分かりやすく解説します。

「普通のカウンセリングとピアカウンセリング、どっちが自分に向いているのかな?」と悩んでいる方は、ぜひご覧ください。

ピアカウンセリングとは?

ピアカウンセリングは当事者同士で支え合うこと

ピアカウンセリングとは、その名の通り「ピア(peer:仲間、同じ立場の人)」による、カウンセリングを指します。

また、カウンセリングとは、カウンセラーと相談者が対話を重ねる中で、相談者が主体的に悩みを解決できるよう支援するプロセスを指しています。

つまり、ピアカウンセリングとは「同じ悩みを抱えた当事者同士が対話を重ね、お互いに悩みを解決できるよう支え合うこと」を示しています。

また、コミュニケーションの技法や態度など基本的な知識についての研修を受けた当事者は「ピアカウンセラー」と呼ばれ、ピアカウンセリングの適切な運営をサポートする役割を担っています。

なお、カウンセリングがどのようなものかは、カウンセリングとは何なのか心理学の専門家が解説に詳しくまとめていますので、ぜひあわせてお読みください。

ピアカウンセリングと専門家によるカウンセリングの違い

ピアカウンセリングと専門家によるカウンセリングには、表1のような違いがあります。

表1ピアカウンセリングと専門家によるカウンセリングの違い

一般的なカウンセリングでは、心について学んできた専門家であるカウンセラーがその知識や技術を活用し、1対1で相談に対応します。

一方、ピアカウンセリングでは、グループを運営するピアカウンセラーはいるものの、心の専門家はいません。

当事者が集まったグループで、お互いの話を聴き、時には自分の経験から助言して、悩みの解決をサポートします。

ピアカウンセリングと自助グループはどこが違う?

自助グループ(セルフヘルプグループ)は「同じ悩みを持つ当事者が支え合う」という点で、ピアカウンセリングと似ています。

一方で、自助グループには、表2のような違いも見られます。

表2ピアカウンセリングと自助グループの違い

心理臨床大事典*1によれば、1935年にビルとボブという二人のアメリカのアルコール依存症者がアルコール依存症から回復するためにはじめたA・A(Alcoholics Anonymous)が自助グループの原型とされています。

A・Aでは「12ステップ」「12の伝統」に基づき、回復を目指したミーティングを重ねます。

また、A・Aでは、「自分はアルコール依存症者だ」と自覚している人だけが参加できるクローズドなグループとなっています。

たとえ、専門家であっても、参加は認められないのです。

そして、このような活動方針や考え方は、後に生まれた薬物・ギャンブル・生依存などの自助グループにも引き継がれています。

ピアカウンセリングよりも、グループのメンバーやプログラム、目的が明確に定められているのが自助グループであると言えるでしょう。

ピアカウンセリングのメリット

同じ立場の仲間に出会える安心感がある

悩みが深ければ深いほど、「こんなことで悩んでいる人は他にいないのでは」「こんな悩みは誰にも分かってもらえないのでは」と孤独や不安を強く感じます。

しかし、ピアカウンセリングでは、自分と同じように悩む仲間に出会えるため、「私は1人ではない」と実感でき、孤独感が解消されます。

また、悩みが分かってもらえない不安も軽減されるでしょう。

梓川(2018)*2も、自身の論文の中で、ピアカウンセリングのメリットとして、同じ経験を持ち、同じ環境にいる当事者だからこそ、ダイレクトに共感でき、人生観や苦悩を分かち合える関係性を構築できることを挙げています。

他者の話を自分に活かせる

ピアカウンセリングでは、自分が話すだけでなく、他者の悩みを聴く機会もたくさんあります。

自分に似た悩みを客観的に聴いていくと、自分1人で考えている時には気づかなかった新しい解決策を発見することがあります。

また、他者がこれまで実践してきたリアルな対処法が、そのまま自分の悩みに活用できることもあるでしょう。

自分の考えや感情を安全に表現できる

自分の考えや感情は不用意に話すと、「そんなことじゃダメだ」と否定されたり、「もっとつらい人がいる」と軽く扱われたりと、かえって傷つけられる危険性があります。

そのため、悩みを1人で抱え込み、人前では無理に笑顔を作って過ごしてきた人も多いでしょう。

しかし、ピアカウンセリングの場では発言を否定されることはありません。

自分の考えや感情をありのままに表現しても受け入れてもらえる体験は、「こんな自分でもいいんだ」と自己肯定感を高め、主体的に悩みを解決する力を与えてくれます。

ピアカウンセリングのデメリット

専門家がいないため集団がギクシャクすることも

プロのカウンセラーは、話しやすい環境づくりや話の聴き方を身につけています。

一方、ピアカウンセリングでは、ピアカウンセラーが一定の研修を受けてはいるものの、基本的には専門的なスキルのない当事者によるカウンセリングが行われます。

そのため、時には、

「聞かれたくないことをしつこく聞かれて嫌だった」

「いつもあの人ばかり喋っている」

「雑談ばかりで意味のある話ができない」

などの不満が溜まり、集団がどこかギクシャクしてしまうこともあります。

不幸な過去にしがみついて現状を変える動きにならない

人には「他者よりすごいと思われたい」という承認欲求があります。

そのため、ピアカウンセリングで「私はこんなにつらかった」「こんなに酷い目にあった」と不幸な過去を自慢して、注目されようとする人がいます。

また、「今、うまくいっていない自分」の原因を全て不幸な過去のせいにして、「今の自分に悪いところはない」と、自分の問題点から目を逸らすために利用されることもあります。

しかし、どれだけ過去を見ても、現状は何一つ変わりません。

ピアカウンセリングは「今」を変えるために参加することが大切です。

仲間からの評価が目的になってしまう

自分の発言に対し、仲間から「とてもいい考え方だね」「すごく共感しました」など、肯定的な評価を得ると嬉しくなり、なんだか満たされた気持ちになります。

人によっては、その満足感が忘れられず、自分の素直な考えや感情を話すことよりも、「仲間に評価される発言」を繰り返してしまうことも。

しかし、ピアカウンセリングは自分自身と向き合い、自分の悩みを解決する場。

「他者がどう感じるか」ではなく、「自分が何を考え、感じるか」を見つめることが大切です。

見つめる対象を見失わないようにしましょう。

まとめ

この記事では、ピアカウンセリングとは何かを解説すると共に、そのメリット・デメリットをご紹介しました。

ピアカウンセリングとは、「同じ悩みを抱えた当事者同士が対話を重ね、お互いに悩みが解決するよう支え合うこと」を指します。

また、ピアカウンセリングのメリットとしては、

  • 同じ立場の仲間に出会える安心感がある
  • 他者の経験談を自分に活かせる
  • 自分の考えや感情を安全に表現できる

の3つが挙げられます。

一方、ピアカウンセリングのデメリットには、

  • 専門家がいないため集団が揉めるリスクがある
  • 不幸な過去にしがみついて現状を変える気にならない
  • 仲間からの評価が目的化する

といった点が挙げられます。

ピアカウンセリングのメリットとデメリットの両面を理解した上で、上手に活用しましょう。

参考文献

*1 田中勝博(2010)断酒会,A・A 心理臨床大事典[改訂版]pp1202-12-3.
*2 梓川一(2018)ピアカウンセリング実践の社会的な意味と役割-難病ピアカウンセリン
グ実践に向けての検討- 豊岡短期大学論 15 pp137-146.

公認心理師・臨床心理士。これまで精神科・児童相談所・療育施設などで臨床経験を重ね、現在はスクールカウンセラーとして勤務。そのかたわらでライター活動にも取り組んでいる。