【本質】人間の性格とは何なのかを心理学の専門家が分かりやすく解説

【本質】性格とは何なのかを専門家が分かりやすく解説

「あの人は性格が良い」「彼は性格が悪い」など、日常会話でもよく使われる「性格」という言葉。

しかし、「性格とは何か?」と聞かれると意外とその答えに困ってしまうのではないでしょうか。

今回は性格とは一体何なのか、その疑問を心理学の視点から紐解いていきます。

性格とは?

性格とは一体何なの

人の特徴を表現する時には、「性格」だけでなく、「人格」、「気質」などの言葉が用いられることもあります。

それぞれ心理学的な定義を探ってみましょう。

気質

気質temperamentは、生物学的に規定されている先天的な反応のことをいいます。

生まれてすぐの赤ちゃんでも活発な子もいれば、大人しい子もいます。

このような生まれつきの性質が気質です。

気質は遺伝的・生物学的な要因の影響が強いと考えられており、成長するにつれて形成されていく「性格」や「人格」の土台となっています。

性格

性格は「キャラクター(character)」を訳したものと言われています。このcharacterは「刻みつけられたもの」の意味を持つギリシャ語kharakterが語源となっています。

先ほどお話ししたように、生まれてすぐの赤ちゃんにも本質的な特徴である「気質」が刻みつけられています。

また、成長する過程でのさまざまな経験や置かれた環境が性質を変えていくこともあります。

例えば、もともと甘えん坊の子どもでも弟や妹が生まれると急にしっかり者になることもありますよね。

このように生まれてから現在に至るまでの行動や特徴を指すのが「性格」なのです。

人格

人格は「パーソナリティ(personality)」が訳されたもので、こちらは「仮面」を意味するラテン語personaを語源としています。

仮面は古代ローマの演劇において様々な役割を演じるために使われていました。

役割になりきるには行動だけでなく、考えや気持ちにまで想いを馳せ、「その人がどんな人間か」をイメージする必要があります。

このことから、パーソナリティという言葉は社会生活の中で求められる役割に応じて形成されてきた人間性を示す言葉として用いられており、先ほどの性格よりも広い意味を持つ言葉となっています。

これまでご紹介してきた「気質」、「性格」、「人格」の3つの関係を図に表すと、次のようになります。

図1気質・性格・人格の関係

性格を形成するものとは?

「性格を形成するものは何か」という問いに対して、心理学の世界では「遺伝が性格をつくる」と考える人たちと「環境こそが性格に影響している」と考える人たちとの間で対立が起こっていました。

しかし、現在では「遺伝」と「環境」との相互作用によって、性格が形成されるという考えが主流となっています。

例えば、アメリカの心理学者トマス(Thomas,A.)とチェス(Chess,S.)は、生後間もない乳児に気質の違いがあることを認めつつ、その気質に合わせた環境で育つ場合と、そうでない場合とでは子どもの行動には違いが生まれるという研究結果を発表しました。

例えば、本来の気質として「活発さ」を生まれ持った子どもでも、行動を厳しく制限する親のもとで育てられた場合には、自信をなくして引っ込み思案になったり、過剰に反抗的になったり…といった変化が起きることもあるのです。

そのため、その人の性格を見るときには「遺伝」だけでなく、「環境」にも目を向ける必要があります。

性格が影響を及ぼすものとは?

自己効力感は性格と強い関係がある

「自己効力感」はカナダの心理学者バンデューラ(Bandura,A.)が提唱した概念で、「自分はこの困難を乗り越えられる」「自分ならやり遂げられる」という感覚のことです。

性格と自己効力感の関係に関する研究は多く、例えば、三好(2007)*1や佐藤(2009)*2の研究によると、抑うつ感がなく、気分が安定していて、活動的であるといった性格の人は自己効力感が高いという結果が得られています。

対人関係トラブルの原因になることも

性格が対人関係トラブルを引き起こす原因になることもあります。

例えば、大人しく控えめな性格の場合、自分の意見をはっきり言えず、「言いたいことがあるならはっきり言ってよ!」と相手を怒らせてしまうこともあります。

また、短気で怒りっぽい性格の人はちょっとしたことでケンカになってしまい、良好で安定した関係を築くことが難しくなります。

性格による対人関係の失敗が続くと、「自分は誰ともうまく付き合えない」とますます他者との関わりに消極的になってしまい、失敗した対人関係の取り方を改善するチャンスを失ってしまいます。

そのため、再び誰かと関係を築こうとした時にも、同じパターンの失敗を繰り返す可能性が高くなってしまうのです。

性格が健康状態に影響を及ぼす可能性もある

フリードマン(Friedman,M.)とローゼンマン(Rosenman,R.H.)らは、心臓病のリスクが高い性格として「タイプA」を提唱しました。

タイプAは、せっかちでイライラしやすく、常にトップを目指しているため、ゆっくりとくつろぐことを無駄と考えるような性格の人たちです。

十分な休息を取れないため、疲労やストレスを蓄積させ、心臓病のリスクが高くなっていると考えられています。

一方、タイプA行動型とは逆に、穏やかでマイペースな性格の人を「タイプB」といいます。

この人たちは自分の心身をケアする能力に長けています。

また、これらの説をベースにアメリカの心理学者テモショック(Temoshok,L.)は、ガンになりやすい性格である「タイプC」を提唱しました。

タイプCは真面目で忍耐強く、自分の感情を抑え込んで他者に尽くしてしまう性格の人たちで、ガンだけでなく、うつ病にもなりやすいと考えられています。

性格に悩んでしまうのはなぜ?

他者や社会に傷つけられたくないから

性格は気質を土台としつつ、他者や社会の期待に合わせて変容させていくことが求められます。

しかし、他者や社会の期待は「〇〇な性格になってね」と言葉にされているわけではないため、いつも「もしかしたら期待とズレているのでは」「他者や社会から否定されるのでは」という不安がつきまとい、「こんな性格でいいんだろうか?」「性格をかえなくちゃ」という気持ちに駆られている可能性があります。

生きづらさから抜け出せないから

生きづらさを抱えている人にとっても、性格の悩みは重大なものです。

例えば、「真面目で完璧主義な性格」の人は、ちょっとした失敗でも「完璧にできない自分はダメだ」と自分を責め、自己嫌悪に陥ってしまうことがあります。

周りの人から見れば「90点なんてすごい!」と思うような結果を出せたとしても、「10点もミスしてしまった!自分はなんてダメなんだ!」と嘆き悲しんでしまうのです。

そんな生きづらさから抜け出すには、生きづらい世界を生み出している自分自身の性格と向き合うほかありません。

性格は1つだと思い込んでいるから

「自分の性格を変えたい」と悩む人は、性格は1つだと思い込んでいるのかもしれません。

しかし、特性論の考え方からも分かる通り、性格は1つの要素で出来ているのではありません。

そのため、家・会社・デート…など求められる役割や環境に合わせて、異なる性格を使い分ける方がむしろ自然なのです。

「性格を変えたい」というのではなく、「今ある性格はそのままに、新しい性格の種類を増やす」と考えてみるのもおすすめです。

まとめ

今回は身近なのに意外と知らない「性格」とは何なのかについて、心理学の視点からお話ししました。

性格は「明るい」「大人しい」などシンプルな言葉で表現されることが多いですが、実際にはたくさんの要素から構成された奥深いものとなっています。

性格に悩んでいる方は、自分自身の性格ともっと向き合ってみてください。

気質の部分にはどんな性質があるのか、そして環境に形成されたのはどんな性質かを知るところから、自分にしっくりくる性格との出会いは始まるのです。

参考文献

*1 三好昭子(2007)人格特性的自己効力感と精神健康との関連― 漸成発達理論における基
本的信頼感からの検討― 青年心理学研究 19 21-31.
*2 佐藤祐基(2009)自己効力感と性格特性との関連 人間福祉研究 12 153-161.

公認心理師・臨床心理士。これまで精神科・児童相談所・療育施設などで臨床経験を重ね、現在はスクールカウンセラーとして勤務。そのかたわらでライター活動にも取り組んでいる。